後藤

実は「休憩」って軽視されがちな労働条件の一つなのです。

ユニット特養やグループホーム(GH)などを運営する施設長、事務長、それから理事・役員の皆様。

「休憩」の問題を早期に解決しない限り、あなたの施設は悪評によって立ち行かなくなる可能性すらありますよ…。

「休憩」を与えていたつもりが、法人と施設長とが送検された

まず、下記の記事を読んでください。労働新聞の記事からの抜粋です(2025年11月4日)。

「福岡・北九州西労働基準監督署は、労働基準法で定められた「休憩時間」を職員に与えなかったとして、介護事業を営む㈱さわやか倶楽部(福岡県北九州市)と同社元施設長を、
労働基準法第34条(休憩)違反の疑いで福岡地検小倉支部に書類送検した。」

解説します。

施設の種類は特定できませんが、同社サイトを確認する限り、おそらくグループホームか介護付有料老人ホームでのことだと思います。

同法人(施設)では、”利用者の見守りをしながら”食事をする時間を

1時間の”昼休憩”と称し、これを「休憩時間」と扱っていたようです。

そして、職員たちは、利用者の様子を見渡せるスタッフステーション内で昼食を摂っていました。一応、利用者からは離れた場所で食事をしていたようです。

でも、利用者から呼び出しなどがあった場合には、当然ですが必要に応じて職員が対応しなければなりません。

「この状態で「休憩」と呼べるのか?」

というのが主な論点であろうと思います。

「休憩時間とは認められない」

同労基署は、次のように判断しました。

同社の言う「昼休憩」は、
あくまで”手待ち(待機)時間”であり
労働基準法に定める「休憩時間」には当たらない。

では、「休憩」の定義とは?

ここで、「休憩」とはいったい何ぞや?という疑問が湧いてきます。
何を持って「休憩」とすればいいのか?
法的に認められる「休憩」とはいったいどのようなものか?

実は「労働基準法」には、休憩の「定義」については記されていないのです。

「定義」としては、下記の行政通達があるのみです。
昭和22年という、古~い通達です。

この「行政通達」は、労働省(現厚生労働省)の事務方トップが、各都道府県の労働基準局に向けて示したものなのですが、その中で「休憩時間」について、次のように解釈すべきと示されています。

「休憩時間」とは、単に作業に従事しない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であり、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと。」【昭22.9.13 発基17 号】

つまり、
休憩というのは、すなわち労働者が「労働から離れることを許される時間」なのです。

ですから、たまたま何もすることのない時間が生じたとしても、上司に指示されたりナースコールに対応したりする必要が生じるなど、即行動を要求される状態に置かれているのは「休憩時間」とは言えないということです。

それらはあくまで「手待(待機)時間」であり「労働時間」として取り扱うべき時間である、ということになるわけです。

では具体的に休憩時間と呼べるのは?

もう少しわかりやすく具体的に考えてみましょうか。

例えば…

  • 休憩室や駐車場に停めた自らの車で手足を伸ばして完全に仕事を忘れて休息を取ることができる。
  • 近くのコンビニまでぶらぶら歩いていき、雑誌を読んだり、飲み物を飲んだり自由に行動できる。
  • 喫煙所で仕事を忘れて缶コーヒーを飲みながら、LINEをしながら一服できる。
  • 食堂で、仕事を忘れて同僚と談笑しながら食事を楽しめる。
  • 休憩のための部屋等で、TVを見ながら仕事を忘れてくつろげる。


「休憩時間」と言えるのは、上記のような状態の時間のことだということです。

要するに、ここでのポイントは…

(時間は短くとも)「(ある程度)仕事を忘れて(離れて)」「(ある程度)くつろげる」かどうか、だと私は考えています。

そして、「仕事を忘れる(離れる)」ためには、職場から物理的に離れている必要があると私は思います。

特に介護現場の場合には、職場内にいたら、誰かから呼ばれたりしたら対応せざるを得なくなりますからね。ただしこれもグループホームでは物理的にかなり難しい可能性も…

逆に、休憩時間と認められないのは?

従って、介護施設で、

(1)ご利用者と一緒に食事を摂る時間(食事介助をしながら)
(2)フロアで利用者を見守りながら、ちょっとお茶をする時間
(3)夜勤時間でたまたま生じた何もすることのない時間

こういった時間を「休憩時間」とみなし、実働時間から除外している職場(法人や会社)もあるようですが、これらは、厳密には「休憩時間とは言えない」ということなのです。

なぜなら、(1)~(3)のいずれの時間も、仕事から離れてくつろいでいる状態とは言えませんよね。

休めていないのです。気を張っていないといけないのです。

(1)については、介護施設において食事等の見守りは、命に直結します。
仮に直接的な食事介助は不要だとしても、介護職員としては利用者さん全員の嚥下状態などに細心の注意を払う必要があり、とてもくつろぐことなどできませんよね。
だから休憩時間とはとても言えないと考えます。

(2)は、体は少し休まりそうですが、突然立ち上がろうとするご利用者もいらっしゃるでしょうし、やはりフロア全体に気を配り常に気持ちを張っていなければならず、とても仕事を離れたくつろいだ状態とは言えず、これも休憩時間に含めることはできないと考えます。

(3)夜勤の場合、たまたま利用者全員が寝静まっていることがあるかもしれませんが、たまたまそういう状態になっているにすぎず、ナースコールには即対応しなければなりませんし、各居室からの物音や異変に直ちに気づき対処しなければ自らの責任を問われると思えば、とてもくつろぐことなどできませんよね。ですからこの時間も「休憩」とは言えないと私は考えます。

■夜勤時の休憩について

夜勤の時の休憩を考えてみます。

ユニット施設やグループホームのようにワンオペでの夜勤では、だれかと交替することも困難。

この点、先の事例でもおそらく疑念はあったのだと思いますが、あくまでも昼休憩についてだけ指摘を受けたように読めます。
ワンオペ夜勤時の休憩については、ある程度は見逃されているのかもしれません(だってたった1人しかいないのに、どうやって休憩を回せばいいの?って話じゃないですか。)。

ワンオペ夜勤の休憩については、いち施設が解決できる問題ではないのかもしれません。

ただ、少なくとも昼の休憩時だけは交替でしっかり休憩できる環境を与えてあげることが求められているのだと私は考えます。

「休憩時間」の定義、少しわかっていただけたでしょうか。

■皆さんの施設では?

さて、皆さんの施設では大丈夫でしょうか。

従来型の大型施設であればスタッフの数も多いでしょうし、交替で「休憩」を取らせることも比較的容易にできると思います。

しかし、ユニット型特養やグループホームなどでは、スタッフ数も少なく、休憩を回すことも困難な施設も多いのではないでしょうか。

ただし困難であろうとも違反は違反ですので改善しなければいけません。
労働基準法ですから、言い訳できません。

人を雇用する上で最低の基準を定めた法律が労働基準法なのですから、最低ラインもクリアできていない法人とみなされてしまいます。

■なぜ、違反が発覚したのか?

さて、もう一つの疑問、「違反がなぜ発覚したのか?」ですが…

はい、皆さんのご想像通りです。

同法人を退職した職員からの監督署への告発です…。

わざわざ監督署に告発するわけですから、よほど腹に据えかねていたのでしょうね。

こういうことになってしまう可能性があるのですから、もしも身に覚えのある法人や施設は、この事案を反面教師として今すぐに改善すべきです。

ちなみに…、

うちでは別に「待機しろ」なんて言ってないし、「休憩を取っていいぞ」と言っている。それでも違反になるのか?

なんておっしゃる経営者や施設長もいらっしゃいます。

はい、それでも違反になります。

なぜなら、実態で判断するからです。
いくら「くつろいでいいぞ」と社長に言われたとしても、職員としては利用者から呼ばれたら対応せざるを得ませんよね。

今回の事案でも、使用者側から労働者に対して明確な待機命令があったかどうかにかかわらず、「実態として休憩ではなく手待ち時間だった」と切り捨てています。

■Tさんの職場の事例

では、なぜ休憩が取れないのか?

私は以前、あるユニット特養(利用者80名程度)に勤務するTさんから、「ウチの職場は休憩が取れないんです」という話を伺いました。

Tさんの職場では、今回の事案よりさらにひどく、ご利用者と一緒に食事を摂る時間を「休憩」に含めていました(!)。

これは、明らかに休憩時間でなく、手待ち時間でもない、もはや労働時間そのものでしょう。
仮に食事介助は不要だとしても、職員は利用者さん全員の嚥下状態などに細心の注意を払う必要があり、仕事を離れてくつろぐことなど、とてもできないからです。

Tさんは、休憩が取れないことについて上司に実情を訴え、その甲斐あってなんとか会議で取り上げてもらえるようにはなったようですが…

なぜか、なかなか改善されないようなのです。

私はそれを聞いて、

「なんで改善できないのか?
職場のリーダーを中心にして、スタッフ同士が交替で休憩を回すだけなのに…なぜそうしないのだろう…」と思いました。
「そんなに難しいことではないのに…」と。

そこで、Tさんからもう少し詳しく話を聞きました。
そしたら、なんと、
喫煙者は自分の好きな時に建物の外にある喫煙所に行き一服をしている、というのです。
しかも、勤務中何度もです…。

どうやら、これがTさんの勤務する施設の暗黙のしきたり、慣習のようなのです。

そして…
実は、リーダーも喫煙者なのだそうです(!)。
ですから、リーダー自身は自由にタバコを吸いに行っているそうです。
だから、そのリーダーからすると、「休憩のルールを決めてしまうと、自分が自由にタバコを吸いに行けなくなるから嫌だ」と言うことらしいのです。

う~ん…。なんだそれ!(怒)

そして、非喫煙者に対しては、「ちょっとその辺(フロアの中)でお茶でも飲んで一服すれば?」と言うらしいのです。

でも、非喫煙者の職員が休憩できるような部屋はないらしいのです。

あまりにも不公平だと思いますね。いったいどうなっているのでしょうか。
喫煙者であろうが非喫煙者であろうが関係なく、リーダーが中心になり、「はい、次あなた●分まで休憩に入って」と指示して順番に休憩を回すだけのことなのに…。

なぜそれができないのか…。私はちょっと理解に苦しみますけどね。

■職員をしっかり守るべき

私は、単に「労働法を守れ」と言っているわけではありません。
「職員をしっかり守ってあげてほしい」と言いたいのです。

職員一人ひとりを大切に考え、その負担や負荷を限りなく減らそうとすれば、必然的に労働基準法等(休憩、有給、労働時間)を守ることになるはずです。

労働基準法は、単に、職員を守るための「最低基準」を定めた法律に過ぎませんから…。

利用者にとっても理想のケアも大切かもしれませんが、それを実現するのは介護職員です。当の職員が辞めてしまったり、メンタルを病んで休職してしまったりすれば、元も子もないのです。

職員に無理をさせるのは続きませんし、あとから必ずしっぺ返しがきます。

職員の心身の健康を保つのは、ある意味施設や法人の役目です。

■まとめ

現在の介護施設は、「働きやすさ」と「待遇」、そして「提供する介護サービスの質」という3つの軸を、バランスを取りながら少しずつ高めていくことが必要だと思います。

そして今、人材確保のための「戦略」として重要なのは、「働きやすさ」や「ワークライフバランス」に重点を置くことです。
ある程度、ラクに継続可能な状態を作り出さない限り、定着はしません。

そして、採用はもう、“求人活動”ではなく“発信活動”です。共感と信頼で人が集まる時代において、職員の心身を守るという土台がなければ、「家庭との両立を本気で応援している」といった“貴法人らしさ”を伝えることもできません。

まずは、目の前の職員の休憩が、本当に「仕事を忘れてくつろげる」時間になっているか、至急確認してみてください。

■ロールモデルの紹介

人手不足どころか、「入職希望者・入職待機者」が行列を作っているという「エーデル土山」。そのエーデル土山の廣岡施設長(現法人理事長)が、その取り組みを余すところなく語ったセミナーの音源・資料セットをご紹介しております。

介護施設の施設長・事務長クラス、そして統括部長クラスの方が多数受講された渾身のセミナーです。
6年前のセミナーですが、今こそ求められている内容だと思います。

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私は、これからの介護施設は、「働きやすさ」と「待遇」、そして「提供する介護サービスの質」。
この3つの軸を、バランスを取りながら少しずつ高めていくことが必要だと考えています。
そして、「今どの軸に最も重点を置くのか?」は、正に人材確保のための「戦略」そのものです。

働き方改革が言われて久しいですが、介護業界はまだまだだと感じます。
これからは介護業界だけでなく、他の業界とも人材獲得競争を繰り広げる必要があるわけですので、抜本的な改革が求められています。

もし法人内が暗礁に乗り上げているのなら、一度後藤にご相談ください。